収穫の直前に、畑の作物がごっそり無くなっている。
倉庫の前に停めていたトラクターが朝には消えている。
こうした被害は全国各地で起きています

先に、いちばん大事なことを書きます。
盗まれた農作物を補填してくれる補助金は、国にも都道府県にもありません。補助金は「これから何かを買う・整備する」ことに出るお金だからです。

だからこの記事では、①盗まれる前に使える補助金 ②被害の実態(どこで何が狙われるか) ③被害にあったときの動き方順に、農林水産省の公表資料の数字をそのまま使って整理します。

① 盗難対策に使える補助金

まず正直に書くと、「盗難対策」を名前に掲げた補助金は非常に少ないです。
国の制度はなく、市町村が単独で持っているものを探すことになります。
みのり補助金ナビに掲載しているものは次の2件です。

自治体・制度金額注意点
青森県 鶴田町 農業用防犯カメラ整備補助事業購入費の1/3以内・1台5,000円まで(1戸最大5台)⚠️支柱・設置工事費は対象外。購入前に見積書で申請
愛知県 碧南市 農業経営改善支援事業補助金防犯対策・鳥獣被害対策の枠で上限10万円同じ補助金の中にスマート農業50万円などの別枠がある

鶴田町の制度は、金額こそ1台5,000円・1戸で最大5台=上限25,000円大きくありませんが、「農作物の盗難被害対策」を目的に明記した数少ない制度です。
果樹・野菜の農家が対象で、りんごやぶどうの産地ならではの枠と言えます。

⚠️ 使うときの落とし穴が2つあります。

  • 対象はカメラ本体の購入費だけ。支柱や設置工事費は含まれません
  • 買ってからでは対象外。見積書を持って先に申請し、交付決定を受けてから購入します。
    「カメラを購入しただけでは補助金の交付対象になりません」と町が明記しています

自分の市町村にこうした制度があるかは、都道府県からさがすお住まいの県のページを開くか、農政担当課に直接聞くのが確実です。
防犯対策が「農業経営改善」「機械・施設整備」といった大きな補助金の一メニューに紛れていることがあるので(碧南市がその例です)、制度名で探すより窓口で「防犯設備は対象になりますか」と聞くほうが早い場合があります。

② 何が、どこで狙われているか

農林水産省は、被害の認知件数が多い23道府県の218機関(市町村・JA等)に聞き取り調査を行い、「農作物の盗難の実態と対応策」としてまとめています(平成30年度調査、警察庁の協力)。
農作物の盗難被害があったと回答したのは70機関でした。

狙われる品目——高い果物だけではない

被害件数が多かったのは、もも、ぶどう、キャベツ、はくさい、りんご、さくらんぼ、いちごです。

高値がつく果物が並ぶのは想像どおりですが、キャベツ・はくさいのような葉物が上位に入っているのが見落とされがちな点です。
単価が安くても、大量に積み込めるものは狙われます。
「うちの作物は高くないから」は理由になりません。

狙われる場所——半分はほ場

盗難場所割合(n=102)
ほ場(畑・園地)48%
ビニールハウス7%
作業場3%
倉庫2%
不明40%

ほ場が48%で、鍵のかかる倉庫(2%)や作業場(3%)はごくわずかです。
当たり前のようですが、これは対策の順番教えてくれます。
倉庫の鍵を増やすより先に、畑をどう見せるかほうが効きます。

被害額——9割が50万円未満だから、諦められてしまう

被害金額割合(n=102)
10万円未満19%
50万円未満17%
100万円未満2%
100万円以上2%
不明60%

金額が把握できた事案のうち9割が50万円未満でした。
「大事件」ではない金額です。
だからこそ、手続きの面倒さに負けて届け出ないまま終わることが起きます。

しかし届け出がなければ、地域の被害として集計されず、パトロールも補助制度も生まれません。
金額の大小にかかわらず警察に届けてください。

解決率——戻ってくるのは11%

102件のうち解決済みは11%、未解決が40%、不明が49%でした。
解決した事例として挙げられているのは、見回りの中で不審者を発見して通報した取り押さえたいうもの、つまり現場を押さえたケースです。

盗まれた後に取り返す前提で考えないほうがいい——この記事でいちばん伝えたい数字がこれです。

③ 農機の盗難は「鍵の挿しっぱなし」が4割

農作物より金額が大きくなるのが農業機械です。
農林水産省が警察庁の協力を得て分析した結果では、2025年の特殊自動車その他)の盗難認知件数は全国179件でした(フォークリフトや農耕作業用自動車などが含まれます)。

過去5年間の内訳を見ると、原因ははっきりしています。

  • エンジンキーが付いたまま盗まれた=39%(346件)
    キーがイグニッションに挿さっていたか、運転席まわりに置かれていたもの
  • 農地に放置された状態で盗まれた=26%(236件)
  • 被害は3〜5月に増える
    春作業で機械を外に出したままにする時期と重なります

農林水産省が示している対策も、この数字に対応した3つだけです。
①機械から離れるときはエンジンキーを必ず抜く ②機械をほ場に放置したまま帰らない使わないときは鍵のかかる倉庫に保管する
お金はかかりませんが、これで盗難原因の6割以上に手が届きます。

日からできる対策(農林水産省の推奨)

保管・管理

  • 収穫物は畑等に放置せず持ち帰る
  • ハウスや保管庫の窓・出入口の施錠を徹底する
  • 収穫用コンテナや脚立は園地からこまめに撤収する。置いておくと盗む側に使われます(脚立がなければ高い枝には届きません)
  • 侵入者を見分けるため、作業者は腕章、農作業車両にはステッカー等の目印を着ける

園地への侵入防止

  • ネットや柵を設置して、侵入しにくい環境を作る
  • 「盗難注意」「立入禁止」等の看板やのぼり旗を設置する
  • 防犯カメラ、センサーライトを設置する
  • 通行人から見える位置に「防犯カメラ作動中」のステッカーや看板を出す

最後の1つは軽視されがちですが、報告されている事例がこれを裏づけています。
いちごのハウスから果実が盗まれた地域で、カメラを設置したうえで「防犯カメラ作動中」「盗難防止警戒中」の表示を出したところ、以降の盗難被害が発生しなくなったされています。
カメラは記録の道具であると同時に、「ここはやめておこう」と思わせる道具です。

地域で行う対策とその効果

実際に行われている対策の内訳は次のとおりです(n=88・複数回答)。

  • パトロール 33%
  • 複数組織(市町村・JA・警察等)が連携して防犯対策を実施 23%
  • 啓発活動(チラシ配布等) 15%
  • ぼり旗、赤色回転灯等の設置 12%
  • センサーの設置 8%

効果について聞いた41件では、「効果はあると思う」39%、「盗難が減った」7%で、「効果はないと思う」「盗難が増えた」はいずれも0%でした。
ただし「分からない」が54%あり、効果をはっきり実感できている地域は多くないのが実情です。

果樹園で収穫直前の果実が盗まれた地域では、生産者と警察が協力して園地を巡回し、あわせて注意喚起のチラシを配布した結果、被害にあう生産者数が減少したいう事例が報告されています。

⑤ 被害にあってしまったら

  1. 片づける前に写真を撮る。被害の範囲・侵入の跡・タイヤ痕など、そのままの状態を残します
  2. 警察へ届ける。不審者・不審車両を見かけた時点なら110番。
    農林水産省も、農作物の盗難の相談先として最寄りの警察署、地方自治体、JA挙げています
  3. 市町村の農政担当課とJAに連絡する。同じ地域で連続していることが多く、注意喚起や巡回につながります
  4. 加入している保険・共済の窓口に確認する。ここは契約内容によって扱いが変わるため、この記事で「対象になる」とは書けません。
    収入保険は「自然災害による収量減少や価格低下だけでなく、農業者の経営努力では避けられない収入減少を広く補償する」と説明されていますが、盗難がどう扱われるかは公表資料に明記がありません。
    NOSAI(農業共済組合)加入先の窓口に、自分の契約で確認してください。農業機械については、動産や機械を対象にした保険に入っていれば対象になることがあります。
    こちらも契約ごとに違います

まとめ

  • 盗まれた農作物を補填する補助金はない。使えるのは「盗まれる前」の設備補助と保険の2つだけ
  • 解決済みは11%。取り返す前提で考えない
  • 被害の48%はほ場
    倉庫の鍵より畑の見せ方が
  • 農機盗難は39%が鍵の挿しっぱなし、26%が農地への放置
    お金をかけずに減らせる余地が大きい
  • カメラは「作動中」の表示までセットする
  • 金額が小さくても必ず届け出る
    届け出がなければ地域の対策も補助制度も生まれない

お住まいの地域で使える制度は都道府県からさがすから、分野で探す場合は分野・作物からさがすお使いください。

出典:農林水産省「農作物の盗難の実態と対応策」(平成30年度調査・警察庁協力)/農林水産省「STOP! 農業機械の盗難被害!!」(2025年の盗難認知件数・警察庁の協力を得て農林水産省にて分析)/鶴田町「農業用防犯カメラ整備補助事業」チラシ/農林水産省「農業経営の収入保険(詳細)」。
いずれも2026年8月5日に確認しました。
制度の内容・金額は年度で変わります。
申請の前に必ず各窓口でご確認ください。